4人のジョブ・アビリティ

バッツ ナイト 魔法剣
レナ  魔法剣士 白魔法
ファリス 竜騎士 召喚
クルル 黒魔道士  時空魔法

 

No.1,Only one




「青き海に眠りし勇敢なる魂よ。我が呼び声に従い、汝の力を我に示せ!来い、シルドラ!!」
 ファリスの掲げた両手から光が生まれ、彼女の上空でその光が弾けると、光の中から銀色の海竜が姿を見せる。
 海竜―シルドラは、ファリスを見つめてその瞳を愛しげに細める。ファリスも、そんなシルドラの瞳に、うっすらと目を細めた。そして、きっと目の前に立ちはだかる魔物たちをにらみつけると、昔からそうしていたように、まっすぐ敵を指差し、ただ一言告げる。
「やれ、シルドラ!」
 ファリスの声に応え、シルドラの放ったサンダーストームが目の前の敵を一網打尽にする。
「全てを焼き尽くす地獄の業火よ、我が前に立ちはだかる者を灰塵にせよ!ファイガ!!」
 トドメをさすべく放ったクルルの黒魔法が、魔物たちの息の根を止めた。
「レナっ!」
「ええっ!」
 クルルの黒魔法を回避した魔物には、長剣を携えたバッツとレナが左右同時に斬撃を繰り出す。急所を捉えた2人の攻撃で、唯一立っていた魔物も、断末魔の悲鳴を上げて地に伏せた。
「ふぅ・・・終わったな」
「みんな、怪我はしてない?」
「平気ー!」
 疲れ知らずのクルルがにっこりVサインを送る。そんなクルルに、レナはくすくすと笑いを零した。
 バッツは剣を鞘に収めてファリスを振り返ると、ファリスは優しげな瞳で光の中に還っていくシルドラを見送っていた。
「ありがと、シルドラ・・・」
 囁くように告げるファリスに、バッツは少々眉を寄せる。
(なんだかなぁ・・・)
 自分の胸の内に宿る感情に、なんだかため息が出る。バッツを悩ませる感情、それは「嫉妬」だ。
 意中の人であるファリスのあの優しげな瞳は、今のところ、シルドラにしか注がれていない。それを見る度、バッツはちりっと胸を焦がす痛みを感じている。
 けれど、それを他のみんなに聞かれるわけにいかず、バッツは兜を脱いで、ただくしゃりと前髪を撫で上げた。
「姉さんやバッツは怪我してない?」
「いや、平気」
「オレも」
 にこりと笑うファリスに、クルルが飛びついた。
「ファリスすごいよね。やっぱり、シルドラと心が通じてるって感じ!」
「えぇ?何だよ、突然」
 抱きついてきたクルルを受け止めながら、ファリスが首を傾げる。
「だってさ。ファリスが呼び出した時が一番強いんだよ、あの子。気付いてない?」
「え?そうか??」
「ああ、それは何となく・・・」
 レナが宙を見ながら頷いた。バッツは、ただおもしろくなさそうにそんな3人のやりとりを見ている。
「それにね、シルドラって、呼び出されてまず、敵よりも先にファリスを見るの。それでね、待ってるんだよ。ファリスが「やれ!」って声をかけるの」
「いや・・・それは、海賊やってた頃からの癖ってやつで・・・」
「ふふ、シルドラも、いつもと同じように命令された方がやりやすいのかしらね、バッツ?」
「・・・・・・」
「バッツ?」
「・・・え、あ。何?」
 話を聞いていなかったバッツがはっとして目をぱちくりさせる。そんなバッツに、クルルは首をかしげた。
「バッツ、どうしたのぉ?」
「あ、いや・・・なんかさ、腹減ったな〜って」
「もう、バッツったら」
 くすくすとレナが笑い始め、クルルも次いで笑い出した。ファリスは呆れたように笑い、バッツも内心は隠したまま、照れくさそうに笑った。
「それじゃあ、今日はこの辺りで野営ね。そろそろ日も傾いてきたし・・・ちょうどいい頃だわ」
「じゃあ、あたしテント張るねー!」
「あ、手伝うよ、クルル」
 帽子を脱いでローブを捲り上げるクルルに、ファリスが手にしたままの槍を収めてテントを張る準備に入る。
「私は食事の用意をするから・・・バッツ、悪いけど、薪拾ってきて貰っていい?」
「ああ、お安い御用だ」
 バッツが手を振りながら、すぐ近くにある森に入っていく。森に入ってすぐ、バッツはクルルと一緒にテントを張るファリスを見つめる。兜を取ったファリスの紫の髪がなびき、楽しそうな笑顔が見える。
「・・・綺麗、だよなぁ」
 小さく呟くと、ちょうどタイミングよくファリスがこっちを向いた。若干遠くてわからないが、目が合ったように思える。
 バッツは慌てて笑顔を作るとひらひらと手を振り、ファリスが何か反応する前にくるりと後ろを向いた。
「さて、と。薪、薪」
 今やらなければいけないことは、ファリスに見惚れることではない。バッツはさくさくと薪を拾い始め、少しずつ森の奥に踏み込んでいった。


 日が落ちて、辺りが闇に包まれた頃。
 1人火の番をしていたバッツが薪を足していると、後ろの方で物音がした。一瞬身を固くするバッツだが、近づいてくる気配と足音で、それが誰だかわかって警戒を解いた。
「どうした?眠れないのか、ファリス?」
 振り返らずに告げる。相手は、一瞬驚いたように足を止めるが、やがて何事もなかったかのように自分の横まで歩いてきて、すとんと腰を下ろした。
「よくわかったな」
「ま、これだけ長い付き合いになればな」
 隣に座った相手―ファリスに、にかっと笑って見せると、ファリスも「ま、それもそうか」と肩をすくめた。
「今日は冷えるからさ・・・これ、一緒に飲もうぜ」
 そう言いながら、右手に持っていたビンを軽く振ってみせる。
「お、いいねぇ♪何の酒だ?」
「へっへー、どこのだと思う?」
「え?」
 薄暗い中、じーっとラベルを見つめていて、「え!?」と声を上げる。
「ルゴルの酒!?お前、何時の間に・・・」
「この間寄った時、宿屋で売ってたんだよ。ここのって強いからさ、レナとか、間違ってもクルルには進めらんねーし」
「確かに・・・」
 ファリスが栓を抜き、用意していたらしいグラスを差し出してくる。どうやら、お酌をしてくれるらしい。
「なんか悪いなぁ」
「ま、たまにはな」
 くくっと喉で笑って、ファリスがバッツのグラスに酒を注ぐ。そして、自分のグラスにも酒を注ぎ、グラスを差し出す。
「ほい、乾杯」
「乾杯」
 ちんっと安っぽい音がしたが、2人は別段気にすることなく、そのままグラスを傾けた。
「ん〜、んまいっ」
「幻、なんて言われるだけのことはあるよなぁ」
 焚き火に目を移し、こくっと喉を鳴らして酒を飲むファリス。焚き火の明かりに照らされたファリスの横顔は、なんだかとても色っぽく見えて、バッツは早まる心臓を押さえるのに必死だった。
(ていうか・・・呑気だなぁ、俺。魔物がいつ襲ってくるかもわからない野外で、何考えてんだ)
 心の中で大きくため息をついて、酒を飲み干す。気付いたファリスが、瓶を差し出してきた。今度は、自分で告げと言いたいらしい。バッツは素直にそれを受け取り、自分のコップに酒を満たす。
「・・・何考えてた?」
 突然のファリスの言葉に、何の事だかさっぱりわからず、首を傾げる。
「何って?」
「昼間。オレの方じって見てたけどさ。なんか、言いたそうだったから・・・言いたいことあるなら、はっきり言えよな」
 いつの話だろうか。シルドラの話をしている時か、それとも、森の中で偶然目があってしまった時か。
「そういうふうな態度、オレ嫌いなんだよ」
「あ〜・・・」
 言うべきか、言わざるべきか。
 言わなければ下手をすれば拳が飛ぶし、言ったとしても、呆れられるのが関の山。ならば・・・
「お前のさ、シルドラを見てる時の目がすごく優しいんだよ。なんて言うか・・・うまくいえないけど」
「目?」
「そう。で、何となく、お前の1番って、やっぱりシルドラなんだろうなって思ってさ」
 後半はかなりの勇気がいったが、何とか言えた。顔が熱くなるのを感じて、慌ててグラスの中身を口に含んだ。
「・・・で?」
「でって・・・?」
「オレの1番がシルドラだとして・・・それが、お前に何の関係があるんだよ」
 同じようにグラスの中身を煽りながら、ファリスがおもしろくなさそうに告げる。なぜか怒っているようにもとれて、バッツはしばし反応に困った。ファリスも黙ったままなので、必然的に沈黙が降りる。
 バッツは必死になって考える。どこまで伝えていいものかを。
 まだまだ旅は続くのだ。ここでファリスと気まずい関係になるのは歓迎しない。戦闘中に影響すれば、それこそ命にかかわる問題だからだ。下手をすれば、クルルやレナまで巻き込んでしまう。だからこそ、バッツは胸の内にあるファリスへの想いを口に出さずにきたのだ。
 それからしばらく沈黙が続いたが、その重い沈黙を破ったのは、意外にもファリスだった。
「オレはな、バッツ。大事なものには、順番なんてつけないんだ」
「え?」
「オレにとって大事なものや大事な奴ってのは、それ1つのみだ。ペンダントもそうだし、シルドラだってそうだし、レナだってそうだ。父さんも、お前やクルルも・・・何1つ代わりになるものなんてない。そんなものに、順番なんてつけたってしょうがないだろ」
 ファリスらしいといえばファリスらしい考えだと、バッツは思う。それから、少し考えてはたと気付いた。
「俺も、一応お前にとっての大事な奴なんだ?」
 バッツの言葉に、ファリスはちらりとバッツを見ると、「バーカ」と一言告げた。
「当たり前だろうが。お前は、オレにとって大事な仲間だし、親友だと思ってるよ」
「親友、か・・・」
 ファリスの言葉に苦笑しながら、グラスの中身を飲み干した。
 光栄に思うべきだろう。ファリスが自分を必要としてくれているということなのだから。例え、自分の望む形でなくとも。
「お前は?」
「え?」
「お前は、オレのこと親友だとは思ってくれてないのか?」
 思わぬ方向から話が来て、バッツは目をぱちくりさせた。
 視線の先のファリスは、なぜかとても儚く見えた。不安そうな表情に、炎の赤と混ざった不思議な翠の瞳が揺れている。
 バッツの心が大きく脈打つ。
「俺は・・・」
 あふれ出そうになる想い。それを塞き止めようとしている理性の壁。ファリスの表情と言葉が、その壁にひびを入れてしまう。
「お前の事・・・親友だとは、思ってない」
 こんなことを言うべきではない、と頭ではわかっているのに、口が勝手に言葉を紡ぐ。もう、想いを止められない。
 バッツの言葉に、ファリスは黙ったまま。炎に目を向けたまま、黙ってグラスを傾ける。
「正確に言うなら、言葉が違うかな・・・お前は俺の大事な仲間だし、親友でもあるよ。でも・・・そうじゃないんだ」
 これ以上は、決定的なことを口にしなければいけない。バッツは口を噤んだ。けれど、ここまで言ってしまったら、もう言うしかない気もする。
 再び沈黙が降りる。けれど、今回の沈黙は短かった。
「オレも・・・」
「え?」
「オレも、お前の事、ただの親友だとは思ってない」
 焚き火を見つめながら、ファリスがそう呟いた。
 バッツの頭が真っ白になる。それはどういう意味だと問い掛けたいのに、声が出てこない。
 ファリスは、立てた膝を抱え込み、その上に顎を乗せて目を閉じた。まつげが微かに震えているのは、何のためだろう?
「お前は言ったな。シルドラが、オレの1番だって」
「あ、ああ・・・」
「お前の言う通りだよ。シルドラは、オレの1番の親友で、たった1人の兄弟だ。それは、変わらない。きっと、これからも」
 ファリスが目を開ける。その瞳は、炎を通して、心優しい海竜を想っているのを物語っている。
「俺は、シルドラの次に親友だってことか?」
「そうじゃない。さっきも言っただろ?オレは、大事な奴に順番をつけたりしないって」
 ファリスの言いたいことがよくわからない。バッツが眉を寄せていると、ファリスの眉も忌々しそうにひそめられた。
「お前は、違うんだ。シルドラとは違う。お前は親友だけど・・・オレはお前を兄弟なんて思っていない」
「んじゃ、親友で、仲間なんだろ?」
「だから、そうじゃないんだっ!」
 苛立たしそうに、ファリスの口調が荒くなる。バッツは首を傾げそうになって、ようやっと気がついた。彼女の顔が、酒のせいでもなく、焚き火のせいでもなく、赤く染まっているということに。
 ファリスは、自分の気持ちを言葉にすることが苦手だった。今も、うまく言葉が出てこないのだ。
「だから、お前は・・・オレにとってだな・・・!」
 一生懸命言葉を捜し、彼女の受け継いだ心そのままに、勇気を振り絞って。
「仲間で、親友で・・・」
「たった1人の、大事な奴だ」
 ファリスの言葉を受け継いで、バッツが静かにそう告げた。
「俺にとって仲間であり、親友であり、誰よりも大事だって思う奴は1人だけだ。・・・ファリスだけだ」
 ファリスは驚いてバッツを見る。バッツは、くすくすとおかしそうに笑った。
「今の言葉、そのまま使ってくれてもいいぜ?」
「い、言えるかっ!」
 ファリスが顔を真っ赤にしてそう叫ぶ。けれど、それは言葉を使わずとも、同じ想いだと言っているようなものだった。
「じゃあ、俺の質問に答えてくれ。イエスか、ノーかだけ」
「・・・なんだよ」
「お前にとって、俺が言ったような奴が俺以外にいるかどうか」
 思わずぐっと言葉に詰まるファリス。わずかな沈黙をおいて、小さく小さく「ノー」とだけ返ってきた。
「てことは、俺がお前にとっての1人だけの人、ってことになるな」
「ばっ・・・んなこと言ってねぇだろう!」
「だって、俺以外にはそういう奴いないんだろ?」
「〜〜〜っ!」
 言い返すことすらできず、ファリスは手にした空のグラスを振り上げる。慌ててバッツが降参といわんばかりに両手を上げた。けれど、顔は嬉しそうに笑っている。
「何笑ってんだ!」
「笑わずにいられるかっての。ずっと一方通行だと思ってたからな。嬉しくて」
「オ、オレは何も言ってないっ!」
「十分伝わった」
 にこっと笑顔を全開にするバッツに、ファリスはこれ以上ないというほど赤くなって黙り込んだ。振り上げられた手がゆっくりと下り、困ったように胸の前でぎゅっとグラスを握った。
 バッツはくすくすと笑って、ファリスの綺麗なアメジストの髪を指に絡めた。おずおずと顔を上げるファリスに、いつもの剣幕はない。
「ファリス・・・」
「バッツ・・・」
 焚き火に照らし出される影が、ゆっくりと1つになる。

 自分にとって1人だけの存在。
 他の誰でもない、あなただけ。
 あなた以外じゃ、満たされない想い。
 あなただけ・・・


 なんといいますか・・・へたれバッツですか?(爆)
 「好き」とか「愛してる」って言葉を使わせないで告白させてみたかったんですが、これが意外と難産でした。いえ、ファリスはそんな「好き」とか言いそうにない気がするので・・・
 ちなみに、最後の影の部分は、キスとかでなく、ただ単に抱き合っただけっていうのが個人的希望なんですが、この辺りはお好きに解釈していただいて結構です(笑)


 

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