トナリ
それぞれ買い出しを終えたら集合って事で
そう言って別れたのは約2時間ほど前の事。
そしてオレはというと荷物を片手に集合場所へと急いでいる。
集合時間には余裕で間に合うが、用も無く雑踏の中うろつくのは好きじゃない。
早足で先を急ぐオレの耳に飛び込んできた声。
「いい加減にして下さい!!」
奇麗なソプラノ。聞きなれた声。
とっさに足を止め声のした方に目を向けるとやっぱり。
オレの最後の肉親、タイクーンの王女レナだ。隣にはクルルもいる。
二人を取り囲むように立っているのはガラの悪いいかにもな男達。
タチの悪い奴等なんだろう。廻りの奴等は気になるものの手を出せないらしい。
「いいじゃねえか。少しくらいつきあえって。」
ニヤニヤ笑うだけで人の話を聞きもせず、自分の都合だけを突き通す。
迷惑が服を着て歩いてるような連中に大事な妹と仲間がからまれている。
これで怒るなと言う方がムリな注文だ。
「・・・オイ。」
あからさまに怒気を含んで声をかける。
「あん?」
うっとおしそうに目を向ける。てめえらにんな面される覚えは無い。
「ファリス!!」
クルルがほっとした顔でオレの方へかけよってきた。レナも何も言わずにそれにならう。
オレは二人を自分の背にかばった。そして威圧的な目線を送る。
だがそれにひるむような相手でもない。
「んだぁ?てめえは」
「てめえなんざ用はねえよ。そいつら置いてさっさと消えな」
ゴロツキどもの鋭い視線。殺気を痛いくらいに含んだ視線に怯む事もなく立ちはだかった。
日頃、魔物との戦いが日常茶飯事な俺にとってはこいつらのこんな殺気どおってことはない。
ただ・・・
・・・少し人数が多い・・・な。
状況からしてこのまま何も無く終わるはずも無い。
一悶着あるのは目の前の奴等を見れば火を見るより明らかだ。
仕方ないな・・・とため息を一つ。
海賊の頭をやってれば少々のイザコザは特にどおって事はないが、何分人数が多い。
そして・・・背後の二人に確実に火の粉が飛ぶ。
それは避けたい。
「レナ、これを持って先にバッツの所に行っててくれ。」
「えっ」
弾かれたようにオレの顔を見つめるレナに微笑んでみる。
「大丈夫だから。気をつけろよ、二人とも。」
そう言って二人の背中を軽くたたき送り出す。ためらう二人にもう一度笑いかけ、
「行け!!」
そう声をかけた。
「・・・気をつけて・・・」
不安げな顔で俺を見て、そして走り去った二人にホッと胸をなでおろす。
これで二人に害が及ぶ事はなくなったわけだ。後顧の憂いはない。
後はこいつらをぶちのめせばいいってわけだ・・・!!
目の前には獲物を盗られてイライラしているゴロツキが十数人。
ちょっとキツイがなんとかなるか。
それから数十分後。
肩で息をしながらよろりと立ち上がる。
その場に立っているのは俺とそれを見ていた野次馬のみ。
ケンカを売ってきた輩はことごとく叩き伏せた。
事が終わったのを見届けるとその場にぞろぞろといた観客が徐々にその場を去ろうとしていた。
「・・・ふう。」
はあはあと乱れた呼吸を整える。あいかわらず肩で息をしながらも周りを見る。
気絶させただけだからそのうち勝手に気が付くだろう。とりあえずほっとこう。
そろそろ戻らないと二人が気にするに違いない。そして、あいつも・・・
「な・・・っ!?」
そんな事をぼんやりと思いながら踵を返し、その場を後にしようとした俺の背後に気配。
どかっっ
衝撃が俺の頭に走る。どうやら頭を後ろから殴られたらしい。全員倒したはずなのに・・・?
ふらついた俺をさっきまで倒れていた奴が羽交い締めにした。
どうやら俺を殴った男はこいつらのボスで、さっきまでこの成り行きを見ていたらしかった。
「油断大敵ってな」
さも面白そうにいやな笑いをうかべそう言う。そして倒れたままの他の奴等にどなりつける。
「手前ら!!とっとと目を覚まさねえか!!」
男の怒鳴り声に倒れていたゴロツキ共が次々に目を覚ました。
「形勢逆転だな・・・」
下卑た笑い声を発しながら尾と子供の一人が俺に向かって言う。殴られてフラつく頭に顔をしかめながら、俺はこの状況をどうやって脱するかを考えていた。
しかし後ろから体つきの良すぎる男に羽交い締めにされているので全く動けなかった。
「・・・ん?」
俺の背後の男が驚きの声をあげた。
「てめえ・・・ひょっとして女か!?」
気づいてなかったのか。
それもちょっと気になるがこの状況でそれに気づかれたのは俺にはかなりイタかった。
思ったとおり周りのやつらの顔が歪んでいる。
「そりゃあ、いいや」
ニヤリと嫌な笑いを浮かべて俺をみる。
「よく見りゃ、キレイな顔してやがるしな。おい、連れてけ」
冗談じゃねえ。
思い切りもがいてみるがびくともしない。体格差がありすぎる。
状況は一転して最悪となってしまった。
「・・・・くそっ、離せ!!」
なおももがき続ける俺を向かいにいた奴等のボスらしき男が面倒くさそうな目を向ける。
「一人でどーしようもねーだろ。あきらめな」
「うるさい。離せったら離せ!!」
かまわず暴れる俺に業を煮やし、そのコブシに力を込めた。
「ちっとぐれえ、痛い目みねえとわかんねえか?」
ひゅっと風がなって、そのコブシが俺の顔に迫る。とっさに目を閉じ来る衝撃を耐えるべく歯をくいしばった。
ばしぃぃぃん・・・・・・・!!
その体格から出るパワーの大きさがそのままその衝撃で発する音に反映されたかのような強烈な音が鳴り響く。
・・・が、しかし。その衝撃はいつまでたっても自分の体に伝わってくる事はない。
さすがにおかしいと目を開けてみた。
すると。
自分の顔の真横から伸びた手が男の拳を受け止めていた。
続けて俺を羽交い締めにしていた決して外れなかった腕がずるりと俺からはがれた。
どさりと男が地面に突っ伏した。おれはわけがわからず立ち尽くす。そして気づいた。
俺の代わりに拳を受け止めた腕。その腕がまとっているシャツを俺は知っている。
立ち尽くす俺の背後から響く声。
「こんな所にいたのか」
ばっと振り替えると思った通りの顔。
「迷子になってんのかと思って迎えに来た」
そう言って恐いくらいに満面の笑顔を浮かべたバッツがそこに立っていた。
「寄り道はこれくらいにして行こうぜ?二人も待ってるし。」
立ち尽くす俺達を無視してにこにこと笑顔を崩さないまま、バッツは言う。
そしてオレの手を取り踵を返す。
わけがわからない。
混乱しているオレの手をかまわず引いてその場を去ろうとした。
「ちょっと待て・・・っ!」
そこで我に返ったゴロツキが当然追いかけようとしたとたん、
「ぐあ・・・っっ!!」
さっきオレを殴ろうとしていた男が苦しみながらその場に伏せる。
まわりの奴等もあわててその男を取り囲んだ。
やはりこの男が奴等のボスだったんだろう。
「手・・・腕・・・が・・・っ」
と、訴えるその男の手はだらん・・・と垂れ下がっている。
それも決して普通はその方向には曲がらない方に。
「て、手首が折れてやがる・・・っ!」
ゴロツキどもの騒ぎをよそにオレとバッツはその場を後にした。
・・・と言うか、バッツがオレの手を引いてると言った方が正しいだろうが。
しばらく二人とも黙ったまま歩いていたが、いたたまれなくなってオレがバッツに声をかけようとした矢先。
「大丈夫か」
バッツの方が先にオレに声をかけてきた。
いつもより少しトーンが低い。怒っている・・・。たしかに無茶をした事が自分でもわかるだけに、何も言うことがない。オレは少しうつむき加減で答えた。
「平気だ。」
殴られた所は少し痛んだが、その他はかすり傷ぐらいしかない。最後も殴られる寸前でバッツが止めたので実質やられたのはあの時の一発だけだった。
オレの返事を聞いてもバッツは振り返らなかった。そのままオレの手を引き歩いていく。
いつもはしつこいくらいに人の顔を覗き込んだり目を見て話す奴だったから、なんだかとたんに恐くなった。
ゴロツキに囲まれても焦る事はあっても恐いとは思わないオレが。
その不安に体が反応したのだろう。ほんの少し・・・バッツとつないだ手に力が入る。
でもそれはほんの一瞬ですぐ元に戻る。込められた力もほんの少しだったから気づくヒマもない。
平常心に戻ろうといつも通りにしようとオレの中の何かがフル回転している。実際海賊なんてやっていればいろいろある。
だけど頭であるオレが動揺してはいけない。平気なフリもなんでもない顔も簡単だった。
誰にも気づかれずに一人その時々来る波に耐えてきたのだ。
そして今も・・・だけど。
いつのまにかうつむき加減になっていて前をよく見ていなかったオレは、いきなりその手を強く引かれて体が傾く。
「わっ」
思わず声をあげ、うつむき加減だった目線を上げようとしてその時にはオレの体はすっぽりとバッツの腕の中に抱きすくめられていた。
突然の事に再び混乱に陥る。かといってむやみにふりほどくわけにもいかずどうしようもなくじっとしていた。
するとやはりいつもよりは少し低い声で・・・怒っているというよりは苦しそうな声でバッツがつぶやくように言った。
「心配・・・した。」
ポツリと。離れていたら聞こえないだろう小さな声でつぶやくように。
その時オレは初めて気が付いた。ふれた背中には大量の汗。
きっとレナ達から聞いて探しに来てくれたんだろう。
「遅くなってごめんな。」
バッツの謝罪の言葉。その唸るような低い後悔を含んだようなその声がひどく痛くてオレは叫ぶように答えた。
「なんでお前が謝るんだよ・・・!!そうじゃなくて・・・オレが・・・っ」
「ファリス。」
「謝らなきゃいけないのはお前じゃない。オレだろ・・・。心配かけて悪かった。オレは平気だ、なんともない。」
オレの言葉を聞いてもバッツは動く気配をみせない。何も言わないまま、俺を抱きしめたままだ。
オレは言い聞かせるように繰り返す。
「ホントなんともないんだ。たいしたケガもしてないし、あんなトラブルはしょっちゅうで・・・慣れてるから。」
続けて言葉を紡ぐ。それでもバッツは動かない。ただオレを抱きしめている。
強くもなく弱くもなくだたその触れる体の温もりだけを感じる。
ふっと体の力が抜けた・・・気がした。
そうして初めて気が付いた。
オレの手は、体はほんのかすかだけどたしかに震えていた。
物心ついた時にはオレの周りはイザコザがついてまわっていた。
海賊の頭ともなればそれは絶えずついてまわった。ケンカを売ったり売られたり。
命のやり取りもしばしばあった。
そんな目にたびたび会えば嫌でも慣れてくる。
敵対する相手を前に思う事はいかに効率よく相手をつぶすか。そんな事くらいだった。
「慣れてるから平気なんだよ。」
いつもそんな風に言って前だけを見てた。
頭と呼ばれたくさんの仲間に囲まれて毎日が楽しくておかしくて。退屈の無い日々を過ごした。
オレのまわりには人が耐える事はなく、いつも誰かしらそばにいた。
けれど。
オレは誰よりも一人きりだったんだ。
慕ってくれるあいつらにどうして手の震えを訴える事ができるだろう。
海賊が嫌なわけじゃない。
オレは海賊の自分に誇りを持っている。
でも・・・それでも時々。
どうしようもなく疲れた自分がいた。
自分ですら忘れかけてたソレをこいつはいとも容易く見つけ出してしまうんだ。
いつも。いつも・・・
こいつがいる時だけはがちがちに固まった体の力が抜けてそのままの自分がいる気がした。
弱い自分も決して悪いものではないと、強さも弱さも自分の物だと気づく事が出来るんだ。
かすかな震えが消えてしまった頃。
バッツの後ろ姿を見つつ二人の待つ集合場所へと急ぐ。
バッツはすっかりいつも通りで笑ったりおどけたりくるくると表情が変わって忙しい。
オレはオレで溜め息ついたりあきれたり。ホントにいつも通り。
「そういやお前。さっきあいつらが手首折れてるとか言ってなかったか?」
去り際のゴロツキの様子を思い出してふと聞いてみた。
「そうだったっけ?」
すっとぼけやがって・・・。じと目で睨むとバツが悪そうな顔をして舌をぺろりと出して笑う。
「いや、関節はずすだけのつもりだったんだけどさー」
くるりと向きを変える。その背中に視線を向けたまま続きを待つ。
ぱっとこっちを向いてへにゃっとした笑を浮かべて言った。
「勢い余っちゃって。」
あっはっはと笑う。笑い事なのか、これは?
「もしかして、お前・・・。」
あの時殴られた俺を見ていたのだろうか。
ホントに勢いだったのならあんなもので済むわけが無い。
剣一振りで魔物を倒す力があれば、人一人こなごなにする事すら出来るだろう。
だからあの時はちゃんとこいつはセーブしたんだ。
わざわざセーブしておきながらもあえてホネを折ったというのはあきらかにこいつの意志が働いた事になる。
「なんだよー?」
口をとがらかせて俺を見る。
オレはふいに立ち止まって、
「・・・っ!」
顔をしかめた。バッツはすぐさま振り返りオレの方に駆け寄ってくる。
「大丈夫か?やっぱ少しは冷やした方が・・・。」
と、言いながらオレの頭部を気遣っている。
オレはどこが痛いのかなんて一言も言ってないのに。
何も言わずじーっとヤツの顔を見ているとようやくオレの意図に気づいてかしまったという顔をしている。
「全く・・・仕方ねえ奴だよな、お前は。」
大袈裟にため息をついて立ち止まったバッツを追い抜く。奴はあわててオレの後に続く。
あきれたフリをしながらオレは顔が笑ってしまうのを押さえようと必死だった。
ヘンな気分だった。
心配させた事が申し訳なくもあり嬉しくもある。
自分がひた隠しにしてきたもう一つの自分の姿をあっさり見つけられた事がくやしくもあり照れくさくもあった。 それでもこいつにならかまわない気がした。
そんな不思議な気持ちを何と言ったらいいのだろう。
今までオレのそばには絶えず人がいた。
けれどそれはあくまで頭とその手下という関係だった。
オレは常に前に立つ。その後に皆が続く。
一人ではない。けれど奴等は決してオレの横や前を歩く事はない。
不満だったわけじゃない。嫌だったわけでもない。
オレにとってそれが当たり前の世界だった。
けれどおれは気づいてしまった。
誰かが隣にいてくれるという事。
何かに迷い足を止めた自分の手を引いてくれる誰かがいるという事。
しがらみも理由も必要なく当たり前にそばにいてくれる誰かがいるという事。
そして・・・
ふと歩みが遅れたオレに気が付いて奴が振り返る。
「どうした?」
「いや、なんでもない。」
少し笑って足を早め彼に並ぶ。
少し下を向いて考える。ボソリとつぶやくように言った。
「・・・サンキュ。」
少し照れくさくてついそっぽ向いてちょっとふてくされたようなカンジで言う。
せっかくわざわざ探しに来てくれた奴にこれはないだろうと思ってはみたもののこの性格はそんな急に変わるわけもなく。それでも気になってこっそりとバッツに目を向けた。
そして奴はというと足はそのまま進めながらもややびっくりしたような表情でじっとオレの方を見ていた。
当然目を向けたオレと目があう。
そしてふっとゆっくりとその顔はやわらかな微笑みに変わる。
奴は何も言わなかった。オレも何も言わなかった。
それでもちゃんとわかってるってその顔は言っていた。
「心配してたのよ・・・。」
二人と合流した後オレはレナにことごとく説教を食らう事になる。
自分でも無茶をしたという自覚はあるので反論も許されない。
後で聞いた話だがバッツの元へ駆け込んで来た二人はどうしようもなく慌てていて、レナに至っては真っ青になっていたという。最後の肉親という気持ちがそうさせたんだろうとバッツは言っていた。
確かにオレもその気持ちは痛いくらいわかる。わかるからこそオレは彼女を二人を守りたかったのだが。
いろんな負い目もあって黙って叱られた。彼女の目は少し赤かった。
「そろそろココ発たないと次の町につくまえに日がくれるぞ?」
と、バッツの助け船でなんとかレナの説教は幕を降ろした。
そして皆で町を出る。今度はちゃんとレナもクルルも笑っている。
少しほっとしてふと横を見るとバッツと目が合う。
にっと奴が笑った。まるでいたずらっ子のような顔で。つられて笑ってしまう。
そうだ。いつもこんな風に奴に乗せられてしまうんだ。
直接何かを言われるわけじゃない。ただそこにいて目が合って笑う。
ただそれだけ。
それだけなのに・・・
「何かくやしいんだよなー・・・」
誰にも聞こえない声でひとりごちる。
どんなに暗く深く沈んでいても奴にかかるとあっさりと逆転してしまう。
つられて笑ってしまう。いつだって。
それにあっさりつられてしまう自分が時々とみに悔しい。
けれどそれ以上にそんな自分を好ましく思っている自分も確かにいた。
それがまたくやしくて・・・とても嬉しいなんて。
なんかくやしい気がするから一生教えてやらないけど。
■あとがき■
おそまつ!!(><///)
なんてゆーかそれしか言葉浮かびませんな(笑)思いついたままに書き綴った結果がコレです。
もっとちゃんと文の組み立て方とか効果的な持って行きかたとか考えようね、自分。
それでも無い脳みそフル回転してがんばりました。まあフル回転ってもこの頭じゃたかがしれてますけど
一応これもバツファリ小説って事になるのかなあ・・・別にラブラブしてないけど
ファリス視点のお話です。いや、私バッツファンですからね・・・
でもこういう話って読むとそのキャラへの作者の思い入れっつーか愛ってゆうか
求めてるものってゆうかわかっちゃう気がするんですが。私の場合はなんだろなー
他の人よりもバッツに夢見てる気がするさ(笑)いいもん。夢見がちでも!!←居直りやがりましたよ
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