『太陽のような君へ』


深い、暗い海の中。
遠くから、あいつの声が聞こえる。
どうした、何でそんな悲しそうなんだ?
待ってろ、そこに行くから。
もう独りにしないから・・・。

「・・・っ、シルドラ・・・っ!」
宿屋の一室で、ファリスは飛び起きた。
体は汗びっしょりで、布団をつかむ手は震え、目は恐怖で大きく見開かれている。
「・・・夢?」
やっと我に返ったファリスは大きく息をはき、顔にかかった髪を掻き揚げた。

これで何度目だろう、シルドラの死ぬ夢をみるのは。
海に現れた大きな渦は、シルドラを引き込んでいった。
その渦は、自分たちが倒したモンスターがオレたちを道連れにするためのもので、
シルドラは、オレたちの身代わりになったのだ。
何度も見たのに、あの恐怖は全く色あせず襲ってくる。

「シルドラ・・・。」
心が冷えていく。
恐怖と不安と、怒りで。



「今日もいい天気ね。」
レナが気持ち良さそうに、伸びをする。
一向は、森の中を進んでいた。
木々の間から、木漏れ日が差し込んできて、なんとも幻想的な風景を創り出していた。
バッツとガラフも、気持ち良さそうに上を見上げている。

だが、ファリスは結局あの後眠れなかったので、そんな気分にはなれなかった。
それに元海賊として、あまりにものんきな3人に少し苛立ちを覚えてしまう。

オレは、何してるんだろう・・・?

以前は海賊の頭として部下を引き連れ、船を駆っていたはず。
もちろん、そこにはシルドラもいて。

なのに、オレはなぜ海を離れ、こいつらと旅をしてるんだろう。

一番大切な、シルドラまで失って・・・。

ファリスはふうっとため息をついた。

「どうした?疲れた?」
突然バッツが顔を覗き込んできた。


「べ、別に?ただ・・・。」
そこまで言ってから、言葉を呑み込んだ。

今、何を言おうとした・・・?

「ファリス?」
固まってしまったオレに、不安げに首を傾げる。

バッツの顔が見れない。

『タダ、オマエラニハオレノキモチナンテ、ワカラナインダロウナッテオモッテ。』

自分でも気付かなかった。
オレに、こんなにどす黒い部分があるなんて。

はずかしい。

「・・・ファリスは、肩に力が入りすぎなんだよ。」
しばらくオレの方を眺めていたバッツが、おもむろに口を開いた。

「え?」
思わず聞き返して、すぐに意味が分かった。
「な、何言ってんだよ。別に無理なんてしてないよ。」

そんな言い訳、バッツに通用するわけないのに。

案の定、バッツは笑って、
「何言ってんだよ。眼に全然余裕ないじゃないか。」
と、かわされた。

「だ、だけど・・・。」
「なあファリス。もっと頼ってくれないか。オレらはお前の部下じゃなく、『仲間』なんだから。もっと、近づこう?」

気のせいだろうか、バッツの横顔が紅く染まっているように見えるのは。

「なんていうか・・・、お前のこともっと支えてやりたいんだ。ほら、お前って責任感強いし、自分で抱え込んじゃうだろ?だけど、それで保てれば良いけど・・・。」

「オレ、そんなに辛そうだった・・・?」

ああ、そうだ。
シルドラが渦に消えそうになったとき。

飛びこもうとしたオレを、バッツはしっかり抱きしめてくれた。
レナは、「シルドラは生きてる」って言ってくれた。
ガラフは、何も言わなかったけど遠くから見てくれてた。

「・・・馬鹿だな、オレ。」

「ん?何か言った?」
小さくつぶやいたのにバッツには聞こえていたようで、くるりと振り向いてきた。

そうやって、いつも気にしてくれてるんだね。

「いや・・・。なんかすっきりした。サンキュ。」
にっこりと、バッツに微笑む。

心から。

「そうか。」
バッツも微笑み返してくれた。
木々の間から差し込む光が逆光となって、バッツが自ら輝いているように見えた。

バッツはオレの太陽。

あのとき、抱きしめてくれた両腕は、とても頼もしく感じた。
ぬくもりがオレの心に、安らぎを与えてくれた。

そして今も、オレが道を見失いそうになったら、その優しい光で、オレを照らしてくれた。

・・・大丈夫。
オレは独りじゃない。

シルドラは生きてる。
もう、道を間違えない。

目指すのは・・・。


「・・・行こうか?」
オレはバッツに手を差し出した。

「・・・ああ、行こう。」

目指すのは、太陽の照らし出した、未来。
                                      END







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