今なら言える
「姉さん、家出る?」
「は?」
それはある晴れた日の午後。たまには姉妹水入らずでティータイムをと、テラスに出てから暫くしてのことだった。突拍子もないことを言い出したのは、優雅に椅子に腰掛け、ティーカップを片手に微笑む、タイクーン王女のレナである。同じく王女であるファリスは硬直したまま呆然としている。
「城出るってお前なぁ!」
「だって姉さん元気ないんだもの。」
「何で元気がなかったら、城出るって話になるんだよ!?」
短絡的だよ、とため息をつくファリス。だが、レナは動じない。
「心配なのよ。ここ最近、窓辺でぼんやりしているばかりで。たまに元気になったなって 思えば階段で転んだでしょ、他にも中庭でも足滑らして噴水に落ちたことだってあるし。 それに昨日だって…」
「…もうわかった。十分わかったから。もういいって。」
聞いてて頭の痛くなるファリス。一体どこで聞いてくるのやら。
「そんなに変か?」
「変よ。」
妹のきっぱりした言い方に苦笑するしかない。
「…バッツのとこ、行ったら?」
不意打ちだった。その名前が出てくることを予測しないでもなかったが、いざ言われると、自分でも驚くほど動揺してしまう。
「な…んで、そこでバッツがでてくるんだよ!?」
「…知らないとでも思っているの?」
「…いや…」
「私もね、『姉さんは渡さない!』なーんて息巻いてたけど…相思相愛なんだもの。
これ以上邪魔する気はないわ。」
でもね、まだ悪気ないのよ、やっと再会できた姉さんをね…焦ったように言い訳する妹を、泣きそうな、嬉しそうな顔で見やってから、姉は席を立とうとする。
「今、どこにいるかもわからないような奴を当てにする気はないよ。」
「えッ、だって手紙は来ないよ。白状だよな。」
「姉さん… 」
「だから。行くところのない姉を追い出そうとしないでくれよ、レナ。」
そう言うと、自室へ戻るファリス。テラスに1人取り残されるレナ。
「ふっぅーん。行くところって言うことは、行く気はあるワケね。」
ほほほ、と笑いながら、レナと自室へ戻ろうと立ち上がる。さっき急な客がやってきたようだからだ。しかも、嬉しい知らせを持って。まず、彼女と話をしよう。
そうしたらきっとこの状況をなんとかできる。一人がダメでも、
だから戦えた
一人じゃなかったから
クリスタルを巡るあの戦いを
だから今度も
大丈夫、何とかなる
それがあの戦いで知ったこと。そして今もそう信じている。
「さーてっと。変なところで優柔不断な人達を何とかしーましょっと。」
楽しげな足取りで歩き出すレナ。客は彼女の部屋で待っているはずだ。
全てが消えてしまいそうだと
あの時思った
別れの日
皆が皆、自分の道へ戻っていくあの日
旅立ちの日とでも言うのだろうか
これが最後だとは思わなかったけれど
そのせいだろうか
言いたい言葉が言えなかった
あの時言えていたら
今、こんなに淋しくなかったのだろうか
ベットに寝転がってファリスは思う。タイクーン城は嫌いじゃない。むしろ好きだと思っている。あまりはっきりとは覚えてないけれど、どこか懐かしいこの場所。そして。
大事な妹のレナが、父親であるタイクーン王はもういないけれど、大臣や城の皆がいる。ここが自分の場所であるこは間違いない。
でも。
頭から離れない顔がある。
忘れられない人がいる。
「レナにも言い当てられちゃったしなー。
レナの言葉は当たっている。確かにファリスはここが好きだ。が、海賊だった頃の名残か、もともとの性格なのか、一つの場所に留まることが、居心地が悪くて仕方がない。
でも。
この城を出る気はない。そんなな事できるわけがない。今の自分には、「タイクーン王女」なんてたいそうな肩書きがついていて。レナをおいて、自分だけ気軽なたびに出る事なんて、できない。
でも。
レナは「行っていいよ」って言ってくれた。少なくとも、どうしていいのか迷っている、優柔不断な自分の背中を押してくれた。
でも。
「『でも』ばっかりだな、俺。」
じゃあ、俺はどうしたいんだ?
答えは決まっている。決まっているからこそ…
「あーもうっ。俺ってバカだよなー。」
今さらながらに気が付くなんて。今さらどうしろって言うんだよ。
そう呟くと、考えることを放棄した。しかし彼女は知らない。彼女の知らないところで今の状況が変わりつつあることを。それによって、彼女は自分の思いを果たすのだ。
だが、今はそんなことを知る由もなく、ゴロゴロと寝転がっているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
「クルル?クルルが来ているのか!?」
侍女の一人が、ファリスを呼びに来て、目が覚めた。そして彼女の小さな友人が、尋ねてきていることを知る。階段を下りるのももどかしく、広間へと向かう。
「ファリス!!」
「久しぶりだな、クルル!」
子犬のように飛びついてくるクルルを抱き留めてファリスは笑った。本人は気が付いていないようだが、久しぶりの笑顔である。
「来るなら言ってくれよ。迎えに行ったのに。」
「えへへーっ。ビックリさせようと思って。レナにも黙ってもらってたの。」
レナが嬉しそうに、ファリスに笑いかける。
「ビックリしたでしょ、姉さん。」
「ホント、ビックリしたよ。」
嬉しそうなファリスを横に、レナとクルルは目配せをする。
「じゃ、行きましょうか。」
スッと姉の右腕を取って歩き出すレナ。ちなみに左腕にはクルルがぶら下がっている。
「え、どこへ?」
訳が分からなくて混乱するファリス。
「はい、ここでクイズ。クルルはどうやってここまで来たと思う?」
いたずらっぽく、謎かけをする妹に、ファリスは気が付く。
「えっまさかっ。」
「そのまさか、よ。姉さん。」
スタスタと容赦のない歩きっぷりで歩く2人に、引きずられるようにして、城の門を出ると、そこにあったものは。
「正解はっ。」
「飛空船でーっす。」
「無茶苦茶するな、お前達。」
2人が何をしようとしているか、やっと気が付く。
「…だから、行きましょ。ね?」
どこへ、とは聞かなかった。レナは知っていて、クルルに飛空船を持ってきてもらったのに。つくづく、すごい妹だと、ファリスは思う。そしてこの行動力に、助けられてきたことに今さらながらに気が付いた。
決心したことを言う前にやられたな、と思う。でも、こればっかりは自分が遅かったのだと、心の中で苦笑いする。
「…ああ、行こうか。」
「行こうよ、ファリス。ミドがね、古代図書館でバッツらしい人を見たって!」
どうやらクルルは、あいつの居場所までつかんできたらしい。
「かなわないな。」
ぽそりと呟く。恐ろしいことにこの真っ直ぐさと強引さには一生勝てないかも知れない。
「何?」
「何か言った?」
「お前達はすごいなって言ったんだ。」
何それ、どーいう意味よ、と騒ぐレナを放っておいて、クルルはファリスにこっそり声をかける。
「がんばって、追いつこうね。ファリス。」
その途端、頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。
「へへへーっ。」
クルルにはそれだけで十分だった。照れているときのファリスは、あまり多くを語らない。そのかわり、こうやって態度で示してくれるのをクルルは知っている。
そう、知っているの
ファリスは優しいって
おじいちゃんがいなくなったとき
皆がいてくれた
だから、今度は
私が何かをする番!!
あの戦いが終わってから、皆、少しづつ動き始めていた。止まっているのは自分だけかも知れないな、とファリスは思う。
だけど。
今からでも遅くないのなら、自分も動き出したいと思う。
「今度こそ、手紙の返事を言いたいよ、バッツ。」
そう心の中で呟く。
あの時、言えなかった言葉が、今は言えると思うから。
「もうすぐで着くわよー。」
「ほらっ見えてきたよッ。」
レナの声が、クルルの声が、力強くファリスの背中を押す。
きっと今なら言える
扉を開けば、そこはもう古代図書館。
Fin
<あとがき>
ここまで読んで下さってありがとうございます。お疲れさまでした。
なんて言うか…バッツ出番無し!?な話でしたねー。私の女好きな性格が、見事に反映していますね(爆)前向きな女の子って好きなんですよ。そういやFF5で嫌いなキャラってあんまりいません。
話的に水瀬さんの続きのような話になってしまいました。水瀬さんごめんなさい。もうしないので許して下さい。
旅支度をして、どこかへ消えたい藤井でした。
藤井 夜沙
バッツが登場しないあたりが想像の余地がありますね。
このあとどうなるのかな〜なんて。
らぶらぶ好きな私としては、もちろん再会をはたすと信じてますけど♪
や、やはり基本は愛の逃避行なんでしょうかね(笑)
身分違いの恋愛だし。私もFF5で嫌いなキャラはいないですね♪
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