yubikiri.
ゆらゆらゆらゆら・・・
真っ黒な海に映る月が、波の音とともに揺れる。
ゆらゆらゆら・・・・
一定の形を保とうとしない月を眺めながら、バッツは手の中の
風のクリスタルをもてあそぶ。
波と一緒に、船も揺れる。
ゆらゆらゆらゆら・・・・
海に映る影が一つ増えたことに気づき、バッツは振り返った。
「ファリスか・・・・」
「こんな夜中に、一体どうしたんだ?」
「ん・・・・なんか、夜風にあたっていたくてな・・・・」
「それにしては、心ここにあらずって感じだったけど?」
ファリスの髪がなびいた。月光に照らされた秀麗なその顔に、
からかうような微笑をたたえている。
・・・・・なんて美しいんだろう・・・
「・・・・最近クリスタルの事とか、タイクーン王の事とか、いろいろあったろ?
そのせいで・・・ちょっと昔のこと思い出して・・・・・」
"タイクーン王"という言葉に敏感に反応するファリス。
・・・彼とバッツの過去と、一体どんな関係が・・・・?
「よし、聞いてやるから、お前、勝手にしゃべれ。」
ファリスは腕組みをし、船の手すりに背をあずけた。
こいつ、素直じゃないなと思いつつ、バッツは笑って話し始める。
「俺の親父の仕事は、クリスタルを守ることだった。そーいうのもあって、
タイクーン王とはけっこう親しかったんだ・・・・」
実はバッツは六歳の時、父の仕事の都合で、タイクーンに滞在した事があるのだった。
初めてタイクーン王に謁見した時は、さすがのバッツも緊張してしまった。
「ドルガン、そなたの息子か。名はなんという?」
「バ・・・バッツです・・・」
「歳は?」
「六歳・・・です。」
「・・・・そうか。お前は澄んだ良い目をしているな・・・。
私にも娘がいるが・・・。仲良くしてやってくれ。」
"長い話になりそうだから、城を自由に見て回るといい"というタイクーン王の許可をもらって、バッツは王の間を出た。どこから見て回ろうかと辺りを見回していると、大理石の柱の陰から不思議そうにこちらを見ている少女と目が合った。
何か話さなきゃ、と考えていると、少女の方から声をかけてきた。
「あなた・・・だあれ?お城の人じゃ・・・・ないよね?」
バッツと少女は、すっかり仲良くなった。少女は城からあまり出たことがないらしく、バッツが故郷リックスの話などをすると、喜んで聞いた。
「いまごろ、リックスじゃあ雪降ってるかなぁ?」
「ユキ?ユキって・・・ええと、白くって、つめたくって、小さくって、う〜んと、
とにかく、綿みたいなやつ?」
「雪、見たことないの?」
「うん・・・タイクーンじゃ、ユキなんて降らないから・・・
すっごく寒くないと、降らないんでしょ?」
「そっかー。雪ってね、すごくキレイだよ。結晶が見えたりするし。
でも、僕が一番好きなのは、雪が降る夜の空。」
「お空?」
「うん。雪が降る夜の空って、すっごくキレイなんだよ。
雪の白と、街灯の光と、空の黒が混じり合って、紫色になるんだ。
君の髪の色みたいに・・・」
「夜の空って、真っ黒しかないと思ってた・・・。いいな、見たいな・・・。」
「冬になったら、リックスにおいでよ。一緒に見よう!」
「ホント!?絶対見せてね。約束よ?」
「うん。じゃあ・・・・」
そう言って、バッツは右手の小指を少女の方に差し出す。
「・・・?バッツ?」
「ゆびきり!」
「ユビキリ・・・?指、切っちゃうの!?」
少女は驚いてバッツにたずねる。
「違う、違う!こうやってね・・・・・」
バッツは少女の手をとり、小指を絡める。
「・・・で、"ゆびきりげんまん、ウソついたら はりせんぼん の〜ますっ"って歌うんだ。」
「クスッ・・・。なに?その歌?」
「んんーと、大事な約束をする時にうたう歌。」
「そっか、だから、"ウソついたらはりせんぼん"なのね? じゃ、約束!!」
「ゆびきりげんまん、ウソついたら はりせんぼん の〜ますっ」
楽しかった日々は足早に過ぎ去り、とうとうリックスに帰る日がやってきた。
バッツは、毎日のように一緒に遊んだあの少女にサヨナラを言ってない事に気づき、父を城門で待たせて城へと戻って行った。
少女がいたのは、飛竜の塔だった。目が赤い。頬には涙の流れた跡がある。
「あっ・・・・バッツ・・・」
「・・・・泣いてたの?」
「グスッ・・・ ね、バッツ・・・ 本当に帰っちゃうの?さびしいよ・・・」
「いつかまた来るよ・・・・。それに、約束したろ?一緒に空を見ようってさ。」
「そうだけど・・・・でも・・・でも、一緒にいたいよ、ずっと・・・・」
「・・・そうだ!大きくなったらケッコンしよう!!そしたら、ずっと一緒にいられる。」
少女は驚いてバッツを見つめる。
「私がバッツのおよめさん・・・・?バッツ、いいの?」
「もちろん!おとなになったら、絶対君を迎えに来る。」
「絶対ね?私、待ってるから・・・・。 じゃ、え〜と、ハイ、ゆびけり。」
「ユビケリ・・・・?違う、違う。ゆびきり!」
バッツは差し出された少女の小指に、自分の小指を重ねる。
「ゆびきりげんまん、ウソついたら はりせんぼん の〜ますっ」
「ああ、思い出って、美しいよなぁ〜〜〜〜」
バッツは、ふう、とためいきをつく。
ファリスは複雑な心境で彼の話を聞いていた。
「思えば、あれが初恋ってヤツだよな〜、うん。」
「・・・・・で、初恋の続きは?大人になったんだから、タイクーンに迎えに
行ってやったらどうなんだ?」
ふと、バッツの瞳に哀しみの影が降りた。
「彼女はもういない・・・・。親父から聞いた話では・・・・」
バッツは、澄んだ青い瞳を、地平線の方に向けた。
「たまたま乗ってた船が嵐に遭って、海に落ちたまま行方不明だそうだ・・・」
「!?」
ファリスの中で、今までバッツに対して抱いてきた疑惑が全て確信に変わった。
初めて会った時から、もしかして、と思っていたけど・・・・やっぱり・・・・
・・・・この話、聞くべきじゃなかった・・・・?
「俺の旅の理由は・・・・・」
そんなファリスをよそに、バッツは話を続ける。
「"世界中を旅して回れ"っていう親父の遺言、それもあるけど、
どこかで彼女が生きてるかもしれないっていう想いの方が強いかもしれない。」
「もし・・・もし、彼女が生きてたら、どうするつもりなんだ?」
「・・・・・どうするって・・・・」
「バッツ!!答えろ!!!」
バッツには、さっぱりわからなかった。
何故、ファリスがそんな質問をするのか。
何故、そんなに強く自分の腕を掴むのか。
何故、そんな真剣な眼差しで自分を見つめるのか。
「どうするもこうするも・・・。俺はただ、彼女に会いたいだけだ・・・」
「・・・・・・」
ファリスは、じれったい気持ちになった。
胸が痛い。
緑色の瞳も、紫色の髪も、昔と変わっていないはずなのに、
どうして気づいてくれないの・・・・?
だからといって、自分から名乗り出る訳にもいかない。
「・・・・出過ぎた質問をして、悪かった・・・」
「ファリス・・・」
「ま、いつかは会えるだろうさ・・・・・・。
ほら、明日はトルナ運河だし、そろそろ寝たほうがいいんじゃないか?」
ファリスは微笑んでそう言い、船室へと続く階段の方へ歩いて行く。
「おやすみ、ファリス。」
「バッツ・・・ウソついたら、はりせんぼんだからな。」
「??ファリス???」
「ふふ・・・おやすみ、バッツ。」
バッツは呆然と、階段を下りていくファリスを見つめていた。
今日のファリスは何か変だ・・・・・っていうか、訳わかんねー。
ため息をついて、黒い海を眺めた。
月の揺れる海面を見ながら、そっと少女の名をつぶやいてみる。
「・・・・サリサ・・・・」
バッツの故郷、リックスに到着した時、そこはすでに銀世界だった。
家の屋根も、辺りの木々も、皆真っ白に化粧をされている。
民家の玄関の前には、子供たちが作ったらしい雪だるまがちょこんと座っていた。
レナはそれを珍しそうに眺めていたが、たちまち両手で口元をおさえる。
「う・・・・わ、私・・・もうダメ・・・吐きそ・・・う・・・」
どうやら黒チョコボで酔ったらしい。
「黒チョコボ・・・結構揺れたからの〜。お姫様には、ちとキツかったかいの〜」
「レナ・・・頼むからここでは吐かないでくれよ・・・・。
バッツ、俺達先に宿屋行ってるから。会いたい人でもいるんだろ?ゆっくりしてこいよ。 俺達のことは気にしなくて大丈夫。」
「サンキュ、ファリス・・・」
「お・・・お願い・・・・早く・・・宿・・・連れ・・て・・」
暖炉の火がパチパチと燃えている。もう夜の十時頃だろうか。
雪は、昼間からずっと降り続けていた。
「ほれほれレナ、そんな所で寝とったら風邪ひくぞい。寝るならベッドに入って
寝たらどうじゃ?」
暖炉の正面に座ってウトウトとしていたレナに、ガラフが忠告する。
「う・・・ん・・・。そうする・・・・。今日はなんだか疲れちゃった。バッツには悪いけど・・・ 先に寝かせてもらうね・・・。おやすみなさい・・・・」
そう言ってレナは布団をかぶった。数分のうちに、寝息が聞こえてくる。
「それにしてもバッツ、遅いな〜」
「"俺達のことは気にしなくて大丈夫"と言ったのは、おまえさんぢゃろが。」
「そりゃそうだけど・・・・」
「ま、あいつも子供じゃないんだし、そのうち帰ってくるぢゃろ」
・・・それって、なんか矛盾してるんじゃ・・・?とファリスは思ったが、
あえて口には出さなかった。ガラフはベッドにもぐりこむ。
「さて、わしもそろそろ寝るかの〜。夜更かしは、老体にはこたえるでな。」
「明かり、消す?」
「おまえさんも寝るんかいの?」
「いや、俺はもうちょっと起きてる・・・。でも、暖炉の火があるから、大丈夫さ。」
「じゃ、そうしてもらえるかの。」
ファリスは明かりを消した。
窓から仄かに紫色の光が差し込む。
「!?」
そう、窓の外は紫だった。
雪の白、街灯の光、そして空の黒が微妙に混じりあって・・・
幼いころにバッツから聞いた通りの光景が、そこに広がっていた。
ファリスは、マントを羽織って外に出た。
「親父、おふくろ、ただいま・・・・・」
バッツは両親の墓を前にして、そっと語りかけた。
「みんなして、俺に"大人っぽくなったね"って言うんだ。
俺、まだ高所恐怖症直ってナイのに・・・」
「バッツ・・・・」
バッツは驚いて、声の主を見る。
「ファリスか・・・・」
「・・・・これは?」
「ああ、これ、俺の親父とおふくろの墓。親父の遺言なんだ。
"死んだら母さんと一緒に埋めてくれ"って・・・。
・・・・・・・これでよし・・・っと。」
バッツは墓石に積もった雪を払った。
「・・・・・親父は強かった・・・」
「親父か・・・・いいもんか・・・?」
バッツは何と答えていいのかわからなかった。
何も言わず、なぐさめるように、彼女の肩にぽんと手を置いただけ。
はっとして顔を上げ、照れ隠しのように微笑むファリス。バッツもつられて笑ってしまう。
「おい、何でお前だけマント着てんだ?それってズルくない?ちょっと貸して。」
「え?え・・・っ・・・・あっっ!!返せバカッ!!寒いだろっ!!」
バッツは、それまでファリスがまとっていたマントを羽織り、
それで包みこむように彼女の肩を抱く。
「ホラ、これで寒くない。」
「・・・・・」
ファリスは恥ずかしそうに視線をさまよわせていたが、
ふと墓石に目が止まり、それからバッツの顔を見た。
「俺、お前の父さん見たことあるよ・・・。遠くからだけど。
髭がちょっと怖かったな・・・・・」
「えっっ?どうして・・・・」
ファリスは微笑んで、紫色の空を見た。
「バッツ・・・空が紫色になるって・・・本当だったんだ・・・・」
「・・・・奇麗だろ?紫色の空は、俺の一番大好きな景色なんだ。
この色、お前の髪の色みたい・・・・・・・・・・・・!?」
バッツは、何かに気づいてファリスを見つめる。
俺、以前にも似たような事言わなかっただろうか・・・?
"うん。雪の降る夜の空って、すごくキレイなんだよ。
雪の白と街灯の光と、空の黒が混じり合って、紫色になるんだ。
キミノカミノイロミタイニ・・・・・"
「・・・・・サリサ・・・・?」
肩を抱く手が、少し震えている。ファリスは何も言わず、じっとバッツの瞳を見つめる。
「・・・・・・サリサなのか・・・?」
ファリスは、意を決したように口を開いた。
「約束どおりだね、バッツ・・・・・・」
二人は長い間、一つの影になっていた。
十数年の空白の時間を埋めるように。
雪は、音もなく降り続けていた。
「俺がお前に会いたがってた事を知ってて、どうして
名乗り出てくれなかったんだ?イジワル〜」
ファリスを抱き締めたまま、彼女にたずねる。
ファリスは、バッツの胸から少しだけ顔を離す。
「言えるか、そんなこと・・・・。それに・・・・」
「それに?」
「俺の瞳の色も、髪の色も、昔と全然変わらないのに、
ずぅ〜っと気づいてくれなかったお前の方かイジワルだ。」
「昔から男装が趣味だったっけ?」
「しゅ・・・趣味じゃねぇっっ!!!」
怒ったように、プイと横を向く。
「ファリス・・・・」
バッツは、ファリスの髪を撫でる。
愛しげに、優しく。
「バッツ・・・・」
「ずっと、会いたかった・・・。ずっと、探してた・・・・。」
「・・・・・・」
ファリスは無言で瞳を閉じる。
バッツはファリスの額に、そっと口付けた。
次に、まぶたに。
頬に。
唇に・・・・・
どのくらいそうしていただろうか。
雪の降る夜なのに、少しも寒さは感じなかった。
「ん・・・バッツ・・・」
「・・・何?」
「そろそろ戻らないと・・・・。皆が心配するといけない・・・。」
「え?あ、ああ・・・」
バッツは名残惜しそうにファリスから腕を離す。
「あ、そうだ。俺がサリサだって事、レナには黙っておいてくれ。いずれ俺から話すから。」
「ああ・・・。ところでファリス・・・・」
「ん?何?」
「もう一つの約束・・・・・」
もう一つの約束・・・・それは、"大きくなったらケッコンしよう!"というものであった。
「ああ、もちろん忘れてないさ。」
「な、もう一度、ここで約束しよう。大きくなったら・・・・いや、もう大人になったか・・・」
「ふふ・・・じゃあ、そうだな、この旅が終わったら・・・?」
「!!!ホントだなファリス!?ウソついたらはりせんぼんだぞー!」
「クスッ。じゃ、えーと、ハイ、ゆびけり。」
「・・・ゆびきりだってば。」
二人は微笑み合い、小指と小指を絡め合う。
ゆびきりげんまん・・・・・・・
あとがき(のようなもの)。
☆最後まで読んでくれて、ありがとうございます!
「一風変わった、アナザーストーリー」を目指したつもりが、
ベタすぎる展開に・・・・。もっと修行つまないとダメですね。文章力とか。
っていうか、何て中途半端なトコロで終わってるんでしょう・・・(爆)
☆「紫色の空」は、私の住む地域では、この時期(冬)になると、ほとんど毎日見られます。
(実を言うと、ファリスの髪の色よりも明るい紫なんですが。)
「そーいえば、リックスって北国だったけ。」というささいなひらめきから始まり、
妄想はだんだん大きくなっていって、この話に至ったワケです。クリスマスも、ちょっと
意識しました。
☆とにかく、こんなダサヘボ文体に最後までつきあっていただいて、
ほんとうにありがとうございました。
か、感想なんかいただけるとうれしいです・・・(爆)。
1999,12,15 マキヲでした。
ごふんごふん!!これ読んだ時、かなり顔がにやけちゃいました〜(>▽<)
すばらしき妄想!(笑)実際にゲームでもこういう設定だったらいいのにな〜(ドリー夢)
もう甘々で少女漫画チックな展開にうはうはです〜本当にありがとうございました!!
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