小さな幸せ


 ここはジャコールの町。火力船で延々海を渡った上、3日ほど歩かされた結果に見つけた町だっただけに、まず最初にする事は買い物である。
そして、その日の宿も取らなければいけないのだ。
話し合いの末、買い物はレナとファリスとガラフ。宿はバッツが探す事になった。
ちなみにそれぞれの目的を済ませて、待ち合わせる事にしたのは町の真中にある大きな酒場である。
「それじゃ、また後でね〜」
 久々の人里(?)で嬉しいのか、レナはわくわくしながら走って店のほうに向かった。
残るファリスはやれやれといった風に追いかけたが、ガラフは疲れているのか面倒臭いのか見失わない程度にゆっくりと歩いていった。


〜side FARIS〜

「すいませーん!え〜と・・・ポーションが5個と、毒消しが10個。それから・・・なんだっけ・・・?」
 さっさと行ってしまったレナを追いかけて、店に入るといきなりレナが困っていた。どうやら急ぎすぎて何を買うのかを忘れてしまったようだ。
「金の針が8つとフェニックスの尾が2つだ。」
「あ・・・ありがと、ファリス。」
 どうやら本気で忘れていたらしい。心の底から助かったと思っているような顔で俺を見た。
それにしてもレナは疲れ知らずか?俺ですら疲れて走りたいとは思わなかったのに、走ってこの店まできたんだしな(でも追いかけるために走った)。
「ポーション5個、毒消し10個、金の針8個、フェニックスの尾2個だね。えー・・・しめて3700ギルになります。」
「えー?ねぇ、もう少し安くならない?」
 今のジョブがシーフだからか、値切るのは忘れない。流石だな、レナ・・・。
それはともかく、レナのおねがい攻撃にやられたオヤジは、3700ギルの物を3000ギルにまけてくれた。結構気前いいオヤジなんだな。
「後は、食料か。」
「うん。でもガラフがいないよ?」
「そろそろ来るんじゃないのか。あ、ほら、あそこでのんびり歩いてる。」
「ホントだ・・・。ガラフー!!早く来ないと捨ててくよー!!」
(レナ・・・捨てるて・・・(^^;)せめて置いていくと言ってやれよ。)
 レナの何気ない爆弾発言に、心の中で突っ込みをいれるもののそれは口に出して言わないでおこう。
そしてレナの”捨てる”発言に慌てたのか、ガラフが急いで俺たちのところに来た。
 暫く歩いて見つけた店で食料とその他(水とか、レナの衝動買い)を買うことにした。
ちなみに食料と水にかかった金はもともと5300ギルだったのだが、またもレナのおねがい攻撃(+脅し(笑))で、4500ギルになった。さっきの道具屋のオヤジといい、ここのオヤジといい、ジャコールのオヤジどもはもしかして若い娘に弱いのか?
いや・・・世の中のオヤジが若い娘に弱いのかもな。
確か前に行ったカーウェンでもウォルスでも、カルナックでもかなり値切っていたような・・・。
レナが値切ろうという意志がなくても向こうが「お嬢ちゃん可愛いからまけてやる」と言い出したこともあった。
(そういえば俺はそんなこといわれた事ないな。)
 昔なら言われたいと思った事なんかなかったはずなのに・・・。最近なんかおかしい。
レナと並んでると、今自分がどう見えるんだろうと思う。普通に歩いてると、きっと恋人同士。もしくは兄妹だろう。
(俺だって女なのに・・・。)
 最近そう思うようになってきた。女であることが前は嫌でしょうがなかったのに、今はそれでもいいと思う。
「・・・リス・・・?」
 けれど、気がつくと俺は女として見られていなくなっていた。こんな格好していればしょうがないとは思うけれど、それでも男に見られることが少し辛くなってきている。
こんな事めったに思わないけど、確実にそう思う事が多くなってきている。
女として見られたい。けど、女らしい格好をして、女言葉を使うのは少し抵抗がある。
たった一人でいい。
バッツにだけは・・・
「・・・ファリス。ねえ、ファリスってば!!!」
「えっ!?ど・・・どうしたんだよ?レナ。そんな大声出して?」
「ファリスがなかなか答えてくれないからでしょ。どうしたの?ボーっとしちゃって。」
「あ・・・いや、なんでもない。ちょっと考え事してて・・・」
 どうやらずいぶん深く考え込んでしまっていたらしい。
「ふーん・・・。あ、そうだ、ガラフがね、疲れたからって先に酒場のほうに行くって。私ももう行こうと思うんだけど、ファリスはどうする?なんかまだ買う物とかある?」
「買う物・・・はないけど少し散歩したいから、先に行ってていいよ。」
「そう?それじゃなるべく早く来てね。そろそろバッツも酒場に行く頃だと思うから。」
「ん、分かった。」
 荷物はガラフとレナが持っていってくれたから俺は持つものは何もなかった。
それから暫く、町の噴水の前で先ほどの続きのようなものを考えていた。
バッツは俺のことどう思っているんだろう?
俺は、バッツのことをどう思っているんだろう?
最初は仲間として、次第に一人の人間として、そして一人の男性として、惹かれていった。
気が付くとバッツのことばかり見ていたり、考えていたりする。
・・・って、それはともかく、なるべく早く来いと言われてるし、そろそろ行ったほうがいいか。
いつのまにかあたりが赤く染まり始めてる。
少し急いで酒場に向かった。けど、酒場の前の階段を上り始めて、そこで足が止まってしまった。
バッツとレナがいた。ただ、そこにいるだけならばよかったんだけど・・・。
レナはこっちを向いている。けどバッツがレナを隠すように俺のほうに背を向けて立っていた。いや、ただ立っているんじゃなくて、レナの肩をつかんで少し屈んでい
る。
これって・・・まさか・・・。
頭の中が真っ白になって、動けなかった。
「あ、ファリス。」
 レナが俺に気がついて、俺のことを呼んだ。バッツはそれで初めて俺の事に気がついたのか、驚いた顔で振り向いた。そうする事で見えたけど、レナは泣いているよう
だった。
それ以上そこに居たくなくて、二人のいるほうとは逆の・・・今さっき来た道を戻る形で思いっきり走り出していた。
「ファリス!!」
 呼ばれたような気がしたけど、そんなの気にしていられない。その場に居たくなかった。
とにかく、その場から離れるために走りつづけた。



〜side BUTZ〜
「それじゃ、また後でね〜」
 レナがやけに嬉しそうに走っていった。その後をファリスが走って追いかけて、ガラフがやる気なさそうに歩いていった。
さて、みんな疲れてるだろうし(レナはそう見えなかったけど)、さっさと宿を見つけないとな。
ていうか、本音を言うと早く休みたい・・・。
「あ、あった。」
 案外広い町だったから、なかなか宿屋が見つからなかったんだけど、やっと見つけた。
「すいません、4人いいですか?」
「いらっしゃいませ、4名様ですね?お部屋のほうはお一つでよろしいですか?」
「あ、えと、2つにしてください。」
 女の子と一緒のへやってのはやっぱりまずいしね。レナはお姫様だし、ファリスは・・・
「2名様づつ二部屋でよろしいですね?・・・お連れ様は後から来られるんですか?」
「はい。・・・あ」
 ここ探してて結構時間くったのかなぁ。外が少し赤い。きっと夕陽が見れるな。
とりあえず荷物を部屋において、待ち合わせ場所の酒場に行くか。
散歩がてら結構ゆっくりなペースで酒場まで行く。
あ、夕陽が見える。へぇ・・・綺麗だな。
「あー!バッツー!!」
 突然向こうのほうから元気よく呼ばれた。この声は・・・レナか。
レナはいろいろ荷物を持ったまま走ってくる。ホントにあの子は疲れ知らずなのか?
「これから酒場行くところ?一緒に行こう。」
「ああ、別にいいよ。」
 断る理由がないし、まあいいか。でもこう言ったらなんだけど・・・レナじゃなくて、ファリスのほうが・・・
ってなに言ってんだよ俺!
「ねえねえ、夕陽だよ。綺麗だね〜。」
「ああ。そうだな。」
 でも、ファリスは俺のことどう思ってるんだろう?仲間としては認めてくれてるはずだけど、一人の男として、見てくれてるんだろうか・・・。
「あ、子供が遊んでるよ。」
「ああ、そうだな。」
 あいつは自分が女だって事が嫌だって思ってるみたいだからな。別にいいと思うけどなぁ。今のままでも確かに美人だけど、もっと女らしい格好もしてみればいいのに。きっと似合うだろうなぁ。
「向こうにね、噴水があったんだ。」
「ああ、そうだな。」
「・・・ガラフはもう酒場に行ってるよ。」
「ああ、そうだな。」
「バッツの次のジョブ踊り子ね。」
「ああ、そうだな。」
「・・・ファリスのこと考えてたでしょ?」
「ああ、そうだな。」
「ねえ!バッツ!!聞いてる!!?」
「え?・・・あ、ごめん聞いてなかった。」
「そんなことだろうと思ったわよ。」
 考え事してて、全然レナの話聞いてなかった。やばいなぁ、たぶん生返事してただけだったんだ。
そう言えばいつのまにか酒場の前に着いてた。
「それで、何?なんか、大事な話だった?」
「ううん。別にそこまで大事じゃないけど・・・。でもそういえばファリスもさっきのバッツのように心ここにあらずって感じでボーっとしてたわ。」
「へ?」
「それで、少し散歩がてら考え事するって言ってたから。」
「あ、それで少し遅くなるんだ。」
「うん。それにしても、ファリスの考えてる事結構分かりやす・・・痛っ」
「!?どうした?」
「ん・・・なんか、目にゴミが入ったみたい・・・。」
 突然レナが立ち止まって俯いた。目にゴミが入った場合は擦らないほうがいいんだよな・・・って、擦ろうとしてるし!
「あ、擦らないほうが・・・!ちょっと見せて。」
 レナの肩に手を乗せてゴミが入ったと思われる目を見る。右の目が少し赤くなってるってことはこっちの目か。
やっぱり痛いのか、涙が止まらない。でも目のゴミを洗い流すって意味では涙を流したほうがいいんだよな。
「大丈夫、ゴミは流れたみたいだ。」
「うん、もう痛くないから、そうみたいね。ありがとう・・・あら?あ!ファリス!!」
「え・・・?」
 振り返るとそこにファリスが立っていた。ちょうど、俺の真後ろのあたりに立ち尽くしていた。
これって、凄い勘違いされやすいシチュエーション・・・(汗)
案の定ファリスは俺と目が合った瞬間に走り出した。
「ファリス!!」
 とにかく、誤解は解かないと!!そのときの俺は完全にレナの事は忘れて、ファリスを追いかけることに精一杯だった。



〜side B×F〜
 夢中で走って、ファリスはいつのまにか最初にいた噴水のところまできてしまっていた。
さっき目撃してしまったシーンが頭の中でぐるぐると回って冷静になる事が出来ない。
(やっぱり、俺は・・・)
 当然だよな。レナはタイクーンのお姫様で、凄く可愛いと思う。
俺じゃ・・・
「ファリス!!」
 噴水の横に座り込んで俯いているファリスはその声に驚いて顔を上げた。
振り向くとおそらく必死で追いかけてきたんだろうか、息を切らせたバッツが立っていた。
「・・・バッツ・・・。何しに来たんだよ!」
 つくづく自分の性格が嫌になる。どうして素直になれないんだろう。
これ以上バッツを見られなくてまた前に視線を戻す。
「何しにって、なんか誤解してるだろ。」
「誤解って、何を?」
「さっきの事だよ。」
(さっきの・・・レナとバッツが・・・。)
「何をどう誤解するんだよ。見たまんまだろ。」
 明らかに不機嫌な様子でバッツを再び振り返るファリス。
だが、ここで怯えたり慌てると余計に疑われてしまうから、なるべく落ち着いてファリスの目を見て話す。
「どう見たのかは分からないけど、さっきのは・・・」
「聞きたくない!!」
 バッツの言葉を遮ってファリスが叫ぶ。けれど、視線はバッツのほうを向いたままなので、無意識のうちなのかその先を促しているんだろう。
「さっき、レナの目にゴミが入ってだな、見てやってたんだよ。」
「そんなベタなウソ、聞きたくない!」
「ウソじゃない、本当のことだよ。」
 心臓がバクバクいっている。何でこんなに興奮してるんだろう?バッツの目を見ればウソじゃないって、分かるのに・・・。
「後でレナに聞けばいい。俺はファリスにはウソをつきたくない。」
 バッツもファリスと同じように心臓がバクバクいって、僅かに手が震える。
けれど、ここで言わないと絶対に後悔する。
「だって、俺・・・・・ファリスの事好きだから。」
「!!?」
 普段切れ長なファリスの目が驚きに見開かれる。と、同時に立ち上がった。
「今・・・なんて・・・?」
「だから、ファリスのことが好きだって・・・!?」
 今度はバッツが驚く番だった。なぜなら、ファリスの目から大粒の涙が一つ二つとこぼれ始めたからだ。
さっきのレナの涙とは違う涙だから、バッツは慌てた。こういうことに慣れていないから余計だ。
「え?あ・・・えと、ファリス・・・。その・・・泣くなよ・・・」
 焦りながらもそっとファリスの背に手を回すバッツ。慰めるようにそっと彼女の頭をなでてやる。
ファリスもそれに甘えるようにバッツの胸に顔を埋める。
「・・・俺も・・・好き・・・」
 涙に震えた上に更に消えそうなほど小さくて、かなり聞き取りにくい言葉だったのだが、バッツにはそれはきちんと聞き取れた。
「・・・そっか。」
 それきりバッツは何も言わずにファリスが落ち着くまでそのままでいた。
「ごめん・・・、いきなり泣いたりして・・・」
「いや、別に・・・ファリスも結構可愛いんだなって・・・」
「可愛い・・・?」
「あ・・・(やばかったかなぁ・・・。嫌がったりして・・・)」
 ”可愛い”といったときに、それをとがめられたと思ったバッツがしまったという顔をした。
けれど、ファリスはそれが逆に嬉しかったのだが。
「可愛い・・・か。」
「(あれ?)嫌・・・だったか?」
「いや、嬉しかった。」
 前ならばそんなことは絶対に言わなかっただろう。彼女の中で何かが変わったのだ。おそらく、バッツに出会ってから。
その変化に今更だが気づいたバッツは、内心驚いたが、それは表情に出さずによかったと笑った。
それにつられたのか、ファリスも笑った。
それがバッツにはとても綺麗に見えて、そっとファリスの頬に触ってみた。
そのまま顔を近づける。
自然に目が閉じられて、唇が重なった。



 結局話しているうちに日が沈んでしまって、夕陽は見れなかったのだが、代わりに満天の星空が見れた。
それを眺めながらレナとガラフが待つ酒場に二人で手を繋いでいった。
それだけだったのだが、とても幸せな事に思えた。
願わくば、この小さな幸せが永遠に続きますように・・・

fin.






後書き(と書いて言い訳と読む(笑))
なんか無駄に長い気が・・・。それにしてもこのシチュエーション・・・ベタですね(^^;)しかも終わり方が意味不明。
あとどうやらこの町は普通と時間の流れ方が違うらしい(違)そんなに早く日が沈むかぁ!!
それともバッツの宿の探し方へたなのか?
そしてレナの性格。なんかクルルとかぶってるー!?
その他諸々あげるとキリがないです。なんか後悔のたくさん残る作品。
次はもっといいものを・・・書けるといいなぁ・・・(限りなく低い志(爆死))

こういうファリス、私大好きです〜♪超素敵ぃぃ〜♪
女らしくない自分、女として見られたいけど、でも…ってところがツボ!!
しかも、バッツにだけは…ってところがさらに…うふふふふ(´▽`)
私的にはそーいうこと考えちゃうあたり、じゅうぶん女らしいとおもいますけどね♪(はぁと)

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